九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センターは、学内外の環境に関わる教育活動・啓発活動を積極的に行い、専門家や研究者だけでなく一般市民も参画可能な研究教育活動を推進する事を目的に、2024年9月10日(火)に九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センター公開講座・九州大学うみつなぎ講演会「回遊魚を取り巻く環境の現在・未来 サケ科魚類の生態解明を目指して」を開催いたしました。
回遊魚の研究で世界的な業績をあげられている北海道大学の荒木仁志教授をお招きし、第一部では、激変する地球の環境で生きていく魚たちの来し方行く末についてご講演をいただきました。
第二部では、荒木仁志教授に加え、若干10歳で日本さかな検定(ととけん)1級に最年少で合格を果たした”高校生のおさかな博士”こと伊藤柚貴くんをパネリストに迎え、九州大学うみつなぎ統括プロデューサーの清野聡子(九州大学工学研究院・准教授)も交え、「魚研究の楽しさを語ろう!」をテーマにトークセッションを行いました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
イベント概要
開催概要
第一部では、北海道大学動物生態学研究室教授の荒木仁志先生によるサケを主とした回遊魚研究の講演。第二部では、”高校生のおさかな博士”として様々なメディアで活躍中の伊藤柚貴氏を加え、「魚研究の楽しさを語ろう!」をテーマにトークセッションを行った。
日程
2024年9月10日(火)15時〜17時30分
開催場所
九州大学西新プラザ
講演者
荒木仁志 氏(北海道大学大学院農学研究院 動物生態学研究室教授 )
パネリスト
伊藤柚貴 氏(高校生のおさかな博士・日本さかな検定1級)
モデレーター
清野聡子(九州大学工学研究院・准教授/九州大学うみつなぎ統括プロデューサー)
来聴者
30名
イベントレポート
【公開講座】サケ科魚類の世界的研究者・荒木仁志 客員教授
今年度から本センターの客員教授に就任された荒木仁志先生(北海道大学大学院農学研究院基盤研究部門生物資源科学分野動物生態学研究室・教授)にお越しいただき、公開講座「回遊魚を取り巻く環境の現在・未来 -サケ科魚類の生態解明を目指して-」をご講演いただきました。荒木先生は熊本市ご出身で、九州大学理学部で学部から博士まで在籍され、九州と九州大学に大変ゆかりのある先生になります。
ご講演では、川と海を行き来するサケ類のダイナミックな生態と生活史、近年の地球温暖化によると思われる生息域(回遊域)や漁獲量の変化、放流問題や持続可能な新しい資源管理の方向性などについて、最新の研究成果を交えてお話をいただきました。
荒木先生は環境DNA学会の理事を務めており、研究に環境DNAを活用されていらっしゃいますが、環境DNAによって、絶滅危惧種のイトウの分布やその生息環境・生態・行動の解析が可能になったこともご紹介いただきました。科学的な根拠データを示しながら、サケを育む豊かな環境(川・海)の大切さ、自然の中で自らの力で生き抜き・産卵させることの重要さについてのお話にも触れ、海とその資源を守るためには、陸域を含む環境の保全と地域毎の生物の特異性を維持して守ることの重要さをご教授いただきました。その具体的な試みとして、北海道の市民団体では、飼育魚の放流を止め、生息・産卵しやすい河川環境に戻す活動の試みが盛んになりつつあることをご紹介いただきました。
温暖な九州では、サケ科魚類は陸封型で海に出て回遊することがありませんが、産卵期に故郷を目指して川に俎上してくる様子の写真は圧巻であり、会場一同感動しました。
北海道の子供達は、街中の川でも俎上してくるサケの様子を日常の中で見れるとのことで、大変羨ましく思えました。会場からの質問は、時間の都合でたくさんいただくことができませんでしたが、質問の内容からは生態系が大きく異なる新鮮な内容であったことを伺うことができました。
サケ類の研究は、環境DNAなどの先進の研究で、昔よりも格段に様々なことがわかるようになってきましたが、それでもまだたくさんのことが未解明とのことです。今後の研究成果によって、科学の解明と水域の保全が進むことを期待いたします。
【トークセッション】伊藤柚貴くんとのトーク 「魚研究の楽しさを語ろう!」
講演会の後は、若干10歳で日本さかな検定(ととけん)1級に最年少で合格した”高校生のおさかな博士”こと伊藤柚貴くんをパネリストに迎え、荒木仁志先生、九州大学うみつなぎ統括プロデューサーの清野聡子(九州大学工学研究院・准教授)を交えてトークセッション「魚研究の楽しさを語ろう!」を行いました。
トークでは、まず互いの(荒木仁志先生と伊藤柚貴くん)魚が好きになったきっかけや、一番好きな魚、これまで食べた魚の種類の数などについて話題が上りました。伊藤柚貴くんがこれまで食べた魚でコレクションしている魚の「鯛の鯛」(胸びれを支える骨)の標本の話題では、荒木先生から「今後はDNAも一緒にコレクションして!」とラブコールが送られる場面もありました。
荒木先生の刺激を受けて、今後伊藤柚貴くんもDNAコレクターになるのか注目されるところです。魚好きなお二人のトークはその後も終始盛り上がり、およそ1時間のトークセッションはあっという間に閉会となりました。
会場には小学生以下のお子さんからシニア層まで、幅広い年齢の方々が参加されました。お二人の魚に関する熱いトークに刺激を受けた方々が、今度は魚を調べる側になっていかれるかもしれません。このような海の精鋭を増やしていけるような機会をこれからも作ってまいります。
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