九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センターは、ハマボウの美しさと魅力を学び、地域知を繋げていくことを目的として、2024年11月4日に、糸島市泉川下流域にて『第39回 海辺の教室 in福岡・糸島』ハマボウのお花見を開催いたしました。
今回の海辺の教室は、糸島市内の親子や多世代の幅広い年齢層の方を対象に行い、一緒にハマボウを観察しました。また、この群落の清掃などの活動を長年にわたり行ってきた「泉川はまぼうの会」の方にお越しいただき、活動の内容について伺いました。
このイベントは、次世代へ豊かで美しい海を引き継ぐために、海を介して人と人とがつながる“日本財団「海と日本プロジェクト」”の一環です。
イベント概要
開催概要
見ごろを迎えた糸島市の天然記念物「泉川下流域のハマボウ」を観察し、花の美しさや魅力を学び、グリーン・インフラとしての防災価値、住民の手で保全されてきたその想いとハマボウの美しさと魅力を学び、地域知を繋げていくことを目的とし、開催しました。
日程
2024年11月4日(月) 13時30分~14時30分
開催場所
糸島市泉川下流域
講師
清野聡子(九州大学准教授・九州大学うみつなぎ統括プロデューサー)
参加人数
11人
協力
泉川はまぼうの会
後援
糸島市・糸島市教育委員会
イベントレポート
泉川ハマボウの観察
ハマボウは、海と川が出会う汽水域の水際に生育する、ハイビスカスの仲間です。シーボルトによって学名が名づけられ、ハマボウという和名が国際的にも認められています。
温帯のマングローブとも言えるこのハマボウが、夏に一斉に黄色い花を咲かせます。糸島市泉川の汽水域では、見事な群落が形成され、住民の方々によって保全されています。市の天然記念物であり、市の花にも指定されているシンボルです。しかし各地で河岸工事により消滅し、現在は希少植物となっています。清野聡子准教授からは、ハマボウの特性をお話しました。
「河口域の植物は、全国でも希少になっています。ハマボウが生えている場所は、海水の塩が入り、水面も潮の干満で上下して浸水と干出を繰り返す、さらに降雨時には淡水で覆われる、という変化が激しい環境です。ハマボウは、他の植物が侵入しにくい環境でも生きていく特別な力をもっています。また、日本の河川では、水際の木は治水上の理由で伐採されてしまいます。そのため、川面に木陰ができにくく、川の生物が上空から見えやすくて鳥に捕食され住みにくくなっており、生態系保全上の工夫が必要になっています。さらに、河口域は海の高波も受けるため、コンクリートで覆われて木が生ええられなくなっています。さらに汽水域は埋立が進んだため、河口域の木自体が消滅してきました。このようは状況下で、ハマボウがこれだけ群生しているのは珍しい」と、清野准教授が参加者に話し始めました。ハマボウの種は漂流漂着系で、河口を離れて水面に落ちた後、漂流していきます。川だけでなく、海へも旅立っていきます。この種子の特性によって分布が広がったと考えられています。
ハマボウが有する多様な機能はグリーンインフラとして地域の防災にも役立っています。ハマボウは汽水域の水際に根を張ることができる、塩分に強い陸上植物です。水面ぎりぎりに生育して、河岸や海岸が波や流れで浸食されるのを防ぎます。清野准教授は河川を指しながら、ハマボウの植生と特性、その不思議と魅力を参加者に伝えました。 台風一過、爽やかな秋晴れの中、参加した小学生は好奇心に溢れ、清野准教授の説明をよく聞き取っている様子で、すぐにハマボウの種を見つけて見せに来てくれました。ハマボウだけでなく松の葉で引っ張りあいっこしてどっちが強いか、という昔遊びをスタッフに教えてもらうと直ぐに夢中で遊び始めました。今年の夏はとても暑い日が長く続いたためハマボウの紅葉は進んでいませんでした。そんな中で遅咲きのハマボウの花が数輪咲いていました。ハマボウの花は朝咲いて夕方しぼむ1日花です。夏の大きく開いた花に比べるとやや小さく、それでも元気を振り絞るように逞しく咲く姿に参加者の皆さんも感動しました。
泉川はまぼうの会
河川敷からは、富士山の形に似ているということから糸島小富士とも呼ばれる標高365mの可也山がその優雅な姿を見せています。糸島市のシンボルである可也山のふもとの泉川一帯に約730株以上の落葉低木であるハマボウが群生しています。始めは一市二町合併前の旧前原市志摩役場の職員が個人的に除草作業を行っていました。一人では大変でしょうという同職場の仲間の想いから、保全活動は平成9年に発足し27年間続いています。護岸工事や河川改修などで、川がコンクリート化されハマボウが姿を消してしまうことを危惧し、その後も有志たちが思いを引継ぎました。前原市と志摩町及び二丈町が合併し糸島市になる時に公募し市の花、シンボルカラー(黄色)となりました。そして市のバス「ハマボウ号」としても広く知られています。泉川はまぼうの会は泉川の清掃活動をはじめ、散策マップを作成するなど保全活動を行ってきました。
また、市内の小学校の総合の授業でゲストティーチャーとして、泉川河口のカブトガニについても約10年ほど指導を行っていました。現在は会員は15名ほどで、月一回、月末に清掃・ごみ拾いを実施しています。草刈り機を使って雑草を払うほか、ハマボウに巻き付くつる性の植物を刈り取るなど、1時間以上かけて作業を行います。以前より量は減りましたが、空き缶やペットボトルなどで袋いっぱいになります。また、自転車のような大型の不法投棄もあるそうです。会員間の温かい人間関係も会の継続の理由になっていますが、できるときに、できるひとが、をモットーに。この会の次代への継承を引き続き見守って応援したい気持ちでいっぱいになりました。
この糸島泉川でのハマボウの保全活動についても、新たな動きが出てきました。九州大学うみつなぎでは、本2024年度は7月と11月の2回、観察会を行いました。糸島市民の参加者の方々から、地域の先輩たちの自然保護活動をどのように継承、発展させるかを考えてくださっています。
前回の参加者の方が、糸島市観光協会さまに今回についてお声がけしてくだしました。さっそくご参加、取材してくださり、同会のWEBサイトのイベント報告に掲載していただけました。
糸島観光サイトつなぐいとしま「特集:紅葉も楽しめる、糸島市の花・ハマボウ」
https://kanko-itoshima.jp/event/hamabou2024/
来年には、地域の方々が守られてきたハマボウや泉川河口の素晴らしい景観を、学校での学習や持続可能な観光としてもっと多くの方々に楽しんでいただけたらと、参加者の方々とも意見交換ができました。このように小さな観察会から、地域で少しずつのうねりが始まっていることを感謝するとともに、大学としての取り組みも進めていきたいとの思いを新にしました。
【インタビュー】環境省自然公園指導員などの経歴を有する平野照実氏
清野准教授と平野照実氏の対談は、九州大学うみつなぎのホームページにもアーカイブがございますので、ぜひご視聴ください。(https://umitsunagi.jp/report/475)
<団体概要>
団体名 :九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センター
URL :https://umitsunagi.jp/
活動内容 :九州大学うみつなぎは、中高生に対する海洋教育を通じて国際的に活動できる「海の精鋭」を育成する活動を行っています。日本財団 海と日本プロジェクトの補助事業として、九州大学が主催し、九州を中心とした各学校・関連団体・沿岸地域との協力体制を築きつつあります。「海の総合知」を目指し、特に海洋ごみ問題に積極的に携わり、地域から国内、国際をつなげています。磯焼け、漂着生物、海洋地形もテーマです。
日本財団「海と日本プロジェクト」
さまざまなかたちで日本人の暮らしを支え、時に心の安らぎやワクワク、ひらめきを与えてくれる海。そんな海で進行している環境の悪化などの現状を、子どもたちをはじめ全国の人が「自分ごと」としてとらえ、海を未来へ引き継ぐアクションの輪を広げていくため、オールジャパンで推進するプロジェクトです。
https://uminohi.jp/
<お問い合わせ先>
団体名:九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センター
担当者:郡・清野
電話番号:092-802-3437(九州大学生態工学研究室)
メールアドレス:contact@umitsunagi.jp
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