シンポジウム要旨
会議名:九州大学うみつなぎ海ごみシンポジウム2021コロナ禍でもどげんかせないかん!福岡・九州の海〜つながる人の環が海ごみゼロを実現するキックオフミーティング〜
日時:2021年3月5日(金)14:00〜16:30
主催:九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センター
共催:笹川平和財団 海洋政策研究所
後援:ESRIジャパン株式会社、内外地図株式会社、BC-ROBP海岸工学会
イベントフライヤーPDFは以下よりダウンロードいただけます。
https://umitsunagi.jp/wp-content/uploads/2021/03/海ごみシンポジウム2021フライヤー.pdf
1.開会挨拶
九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センター長・教授 島岡 隆行
ローカル、グローバルの環境問題は相互に密接に関係しており、海洋の総合管理はまさにそのような課題と早くから向き合い経験してきた分野だといえる。
笹川平和財団 海洋政策研究所 海洋政策研究部長 赤松 友成
博多湾などの市民に身近な海であったとしても、海の中まで手に取るように見える状況にはなっておらず、これは陸上と大きく違う部分だ。誰もがスマホを持ちインターネットにつながった今日、都市、川や海に至る現状を見える化していく試みは、地域資源である海を再認識し、これを守り・付加価値を与えて後世に継承していこうとする上で非常に重要的なアプローチだ。博多湾をIoT時代の地域の知恵で守り継承していってほしい。
2.発表タイトルと発表者(順不同)
(1)瑞梅寺川での川ごみ調査プロジェクトにおける経験と気づき
日本コカ・コーラ株式会社 飯田 征樹・柴本 健太郎
(2)瑞梅寺川クリーンアップ活動の紹介
地元企業:九星飲料工業株式会社 岩尾 英之
(3)大学1年生によるスマホとGISによる多世代海ごみ調査
大学生活動団:maiPLA 宮崎 幸汰・森 心太
(4)福岡の高校生の川の環境活動:川掃除参加から川ごみ・海ごみ調査へ
福岡県立城南高等学校 2年生4人
(5)瑞梅寺川・今津干潟のビーチクリーン
すみよい今津をつくる会 会長 横尾 安弘
(6)福岡都市近郊の川の環境活動の紹介
福岡大学工学部社会デザイン工学科流域システム研究室 教授 渡辺 亮一
(7)陸と海のつながり:沿岸域管理と生物多様性
笹川平和財団 海洋政策研究所 研究員 豊島 淳子
(8)「九州大学うみつなぎ福岡」の地域と連携した海の教育
九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センター准教授 清野 聡子
(9)ラブアース・クリーンアップの歴史と今後の展開
福岡市環境局循環型社会推進部 家庭ごみ減量推進課長 伊賀 上恵子
(10)市民と共に歩むリサイクルと流域ごみ管理
宗像市市民協働環境部環境課環境対策係長 上村 英徳
(11)福岡県の海ごみ対策
福岡県環境部環境政策課 企画広報監 吉川 泰彰
3.提言に向けたキーワードの共有
九州大学大学院工学研究院附属環境工学研究教育センター 准教授 清野 聡子
講演者、参加者、企画支援者等とともに以下のキーワードを共有することができた。また、後日主催者としてこれらを提言としてとりまとめることとした。
・地域の現場の状況の Web-GIS での見える化とデータ公開の重要性
・市民調査データと水
・廃棄物管理者との連携
・ビジネスセクターの貢献
・牽引役としてのユースの活躍
4.その他の活動紹介・謝辞
さとより・佐々木達也氏は海ごみ問題が深刻な対馬から、スマホで海岸を中継し現状を紹介した。対馬 CAPPA・末永通尚氏は多様な人との連携での問題解決を訴えた。対馬のくらげれんごう・山崎唯氏は親子連れで海を楽しみながらのクリーンアップ活動による普及を紹介した。BCROBOP 海岸工学会・吉富容氏は海ごみ問題だけでなく、廃棄物、行政、水産、土木、製造などの 仕事に携わる方々との連携の重要性を自らの実践活動に立って訴えた。
九州大学21 世紀プログラム学生・田中迅氏は、学生としての自ら経験した海洋環境分野での ユース国際会議などでの議論や対話の動向を紹介し、中高校生らの関心を喚起し同世代の参加を 呼び掛けた。このほか、九州大学うみつなぎで活動する学生らは、環境活動が実施されている箇所の分布を Web-GIS のデータと画像で紹介し、団体・グループ・個人の無数の人たちの 努力の痕跡が海岸線一帯を覆っている現状を見える化し関心を集めた。
地域からは、九州大学近くの糸島地域で続けられてきた数々のビーチクリーン活動に纏わる思いが紹介された。壱岐防人、五島自然塾、水族館マリンワールド海の中道のビーチクリーンがビ デオクリップで紹介された。うみごみラボ・木下英生氏、すみよい今津をつくる会からは、地元 の川や干潟のごみ、絶滅が危惧されるカブトガニについて動画などでの紹介がなされた。
シンポジウムには、九州だけでなく全国各地、さまざまな立場の方々の聴講参加があった。海上保安大学校・下山憲二准教授、セブンイレブン・ジャパンサステナビリティ推進室・矢萩陽 子氏、みずしま財団瀬戸内研究所所長(元放送大学岡山学習センター客員教授)磯部作先生など、海洋管理・資源循環の問題に関心を持つ、分野を越えた実に多くのセクターからの参加があり、シンポジウム終了後にも数多くの反響や提案を頂いた。
プロジェクトを実施するにあたり、ESRI ジャパン、内外地図株式会社には、Web-GIS プラットフォームの提供や技術的支援などを頂いた。本プロジェクトは、日本財団海と日本プロジェクト2020の助成を得て実施したものである。ここに謝意を表する。
以上
得られた成果
IoTとデータが実現するコロナ禍の地域の環境活動の実践と企業協働に向けて
コロナ禍でもどげんかせないかん!福岡・九州の海
つながる人の環が海ごみゼロを実現するキックオフミーティング で得られた成果
海ごみの8割は川から出てくる。海が身近な福岡には都市と川と海のつながりを知り、環境活動に共に取り組む仲間がいた。しかしコロナ禍は、ごみ清掃をはじめとする様々な活動ができなくなるという現実を突如もたらした。
この現実をどげんかせないかん!という地域・ユースの思いを受け止め、九州大学うみつなぎは、博多湾に連なる流域に暮らす市民の行動力・大手企業や地域企業の力・地域の大学生や高校生の熱意・行政の助けを得て、スマホやWeb-GIS(ウェブ型地理情報システム)などを介して関係者をつなげ、そこで得られた流域のごみ分布情報をオープンデータとして公開し、海ごみ問題の解決に向けた行動に弾みをつけた。
2021年3月、これまでデータを介してつながってきた地域のさまざま関係者が集まる公開ウェブミーティングを開催し、それぞれの知見を共有して、これを博多湾・玄界灘の環境を守るという具体的な行動へと発展させていく足がかりを作り出した。閉鎖性海域である博多湾とそれに連なる流域に100万人以上が暮らす福岡都市圏、そして対馬や五島などの離島といった、多彩な自然的・社会的条件を備えた福岡・九州の海。ここから沿岸域の問題といかに向き合い、海ごみ問題を中心にコロナ禍における環境活動がいかに展開しうるのかという問いを吟味し、主催者として3つの提言にまとめた。
このIoTの時代にあって、環境に関する地域の知恵やデータが、行政や特定の企業・団体に断片化して保有されるのではなく、グローバルコモンズである海を守るために広く共有され、海洋環境の保全が確実なものとなることを心より願っている。
提言
1.Web-GISを用いた市民による川・海ごみ分布の科学的調査の展開とデータ公開
団体や個人による川や海でのWeb-GISを用いたごみ分布のマッピングと清掃活動の結果、福岡沿岸では全砂浜を覆う多数の活動が展開されている状況が可視化された。また、個々の小さな努力の集合が全体として効果を発揮するという認識を深め、ごみ問題を抱える場所や時期を捉えて効率的に展開できる仕組みを築くことの重要性を共有することができた。
今日、海洋ごみ問題は人類共通の問題となっており、人類共有の財産(グローバル・コモンズ)である海洋を適切に管理していく上で、川や海のごみ分布データの重要性が非常に高まっている。また、コロナ禍で、人の密集を避けた環境活動の展開を実践するため、必要なデータを市民の手でスマートフォンを用いて収集するなど、IoTや空間情報技術を介して不特定多数がつながり参画できる活動が求められる時代となった。これらを踏まえ、スマホを通じて誰もが利用可能なデータ入力インターフェースであるWeb-GISを基盤として収取したデータは、誰もがダウンロードして自由に利用できる状況にしておくため公開すべきであり、この考えに対しての支持を得た。
2.ビジネスセクターを歓迎した地域環境活動の醸成
CSR(企業の社会的責任)活動を実施した結果が定量的・定性的に評価できるよう、手法や仕組みを整えていくことは、企業イメージの向上に軸足を置いた従来のCSR 活動を、経営の視点で 戦略的に展開する企業環境行動へと発展させる。企業は、経営者や株主、消費者、消費者団体など、さまざまな関係者の理解の上にビジネスを展開している。その一方で、川や海に散乱するごみ問題は、企業、地域社会、自治体にとって頭の痛い問題となっている。
九州大学うみつなぎふくおかの活動発足を後押ししたものとして、2019 年に日本財団と日本コカ・コーラの共同事業として実施されたGIS を用いた大規模な川ごみ分布調査(陸域から河川への廃棄物流出メカニズムの共同調査:福岡県瑞梅寺川流域)結果データの存在があった。この取組みやデータが土台となり、地域の学生・市民がコロナ禍にあってもWeb-GISを用いた調査を独自に進めることができた。また、そこで得られたデータを公開したことで、川と海のごみ問題を俯瞰した対策にあたるという意識が地域社会に整い、企業との対話が生まれ、企業の協力を得てともに進める対策活動を展開する機運が醸成された。
3.ユースが牽引する IoT 時代の地域環境活動と多世代の協働
九州大学のある福岡都市圏には、国境地域の離島や漁村など、孤立した条件のもとで海を身近に感じられる環境で育った大学生が多くいる。また、山口、福岡、佐賀、長崎に跨がる玄界灘に面した大学は、学生活動を広域的なつながりを持って展開している。このような地域で育った学生にとって、インターネットは人との繋がりを作る上での不可欠なツールとなっている。そして、国内にとどまらず世界とのつながりを日常的に形成し、グローカルな活動でリードしている様子を見せてくれる。
データは人を繋ぎ、問題解決に貢献する。これらのことから、地域の拠点大学には、このような活動を飛躍させる上での教育のハブ・社会のハブとしての役割に応える責任がある。また、行政や地域にはIoT時代の地域環境活動と多世代の協働を牽引するユースの活動への理解と支援が期待される。
(参考)
・九州大学うみつなぎふくおか http://www.umitsunagi.jp/fukuoka/index.html
・Web-GIS:プラごみロケーター https://umigomi-kawagomi-app-naigai-map.hub.arcgis.com/
・Web-GIS:#海は世界をつなぐ道プロジェクト https://www.munakata-ecofes.com/project/
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